東京地方裁判所 昭和29年(ワ)9822号 判決 1958年6月09日
原告 石井達郎
右代理人弁護士 浜田三平
同 小林澄男
被告 国産鉱油株式会社
右代表者 垣見佐右衛門
右代理人弁護士 滝内礼作
被告 日本石油株式会社
右代表者 佐々木弥一
右代理人弁護士 有馬忠三郎
<外二名>
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
証人寺田整治郎の証言並びにこれにより真正に成立したものと認める甲第一証号によれば、寺田整治郎は原告から昭和二十六年九月頃より同年十二月頃までの間に数回に亘つて合計金七十五万円を借り受け、同年十二月十日原告との間において右借用金につき利息を年一割、弁済期を昭和二十七年二月十日、期限後の損害金を日歩十銭とする旨を約した事実が認められる。
しかして、右寺田が被告国産鉱油に対し債務の弁済に代え昭和二十七年四月七日別紙第一目録記載の不動産を同月八日別紙第二目録記載の不動産を各譲渡したことは、原告と被告国産鉱油との間に争がなく、被告日本石油に対する関係では後記登記の事実並びに被告国産鉱油代表者(当時)田中英本人尋問の結果によりこれを認めるに十分であり寺田が被告国産鉱油のため右不動産につきいずれも売買名義により原告主張の各所有権移転登記手続をなしたことは当事者間に争がない。
ところで、成立に争のない甲第八号証、同第十号証、証人寺田整治郎、同棚橋泰吉、同小山久雄並びに被告国産鉱油代表者(当時)田中英本人尋問の結果を綜合すれば、寺田は当時被告国産鉱油に対し約金三百九十万円の債務があつた外朝日油商株式会社に対し約金百三十万円、共和産業に対し約金四十万円、京浜建材に約金百五十万円、原告に対し金七十五万円の各債務を負つていたに拘らずその資産としては本件譲渡不動産(当時の時価合計約金二百万円)並びに東京都大田区御園二丁目二十一番の六宅地三百坪(当時の時価約金百五十万円)の外格別見るべきものがなかつたこと、もつとも東洋鉱油に対し約金三百万円の債権を有しその他に対しても約金百万円の債権を有したがその殆んどが既に取立不能の状態にあつたことが認められるから、かような状態において共同担保の過半額を占める本件不動産を譲渡するときは総債権者に対する弁済資力に不足が生じることは明らかである。とはいえ証人小山久雄、同松室重陽、同関正隆の各証言並びに被告国産鉱油代表者(当時)田中英本人尋問の結果を綜合すれば被告国産鉱油は本件不動産の譲渡を受けるに先立ち専門家(三菱銀行)に右不動産の評価を仰ぎこれに基き第一目録記載の不動産を以ては金百五十六万余円、第二目録記載の不動産を以ては金四十五万余円の債権額と決済すべく本件代物弁済を受けた事実が認められるから、反証がない限り右譲渡価格は時価相当額であり又その弁済をみた債務は既に弁済期が到来したものと推認すべく、従つてかような事情のもとにおいては本件代物弁済行為は寺田整治郎が当然履行しなければならない義務を履行するためその所有財産に対して有する処分権を適法に行使したものという外なくこれがためたまたま一部の債権者が弁済を受け得ず詐害される結果を招いてもそれは破産手続における場合と異り強制的分配主義が働かないことによるものであつて当該債権者の受忍しなければならないところであるというべくこれを目して詐害行為となすのは当らない。原告の提出援用するすべての証拠によつても前記認定を覆して本件代物弁済行為が詐害行為なることを認めるに足りない。
それならば右行為が詐害行為なることを前提とする原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当であるから棄却を免れない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 駒田駿太郎)
<以下省略>